ウソのある世界でも偽りない

「それにしても熱い告白劇だったわねー。まさに青春って感じ?」
「なんか半分ヤケになってたけどね。男連中皆」
ゲイナーのとった、プラネッタの“相手の思考を読む”というオーバースキルへの対抗策は、その能力を逆手に取った搭乗者への精神攻撃であった。
ただし、その内容は極めて平和的とも言えた。
何しろ同級生のサラ・コダマへの恋慕の想いを強く熱く叫ぶという、ただそれだけなのだから。
しかしこの手の話が身の毛がよだつほど嫌いな搭乗者のカシマルには恐るべき威力を発揮してしまったのである。
更にゲインたちが煽りガロード、レントンの告白が続くこととなり、作戦は無事に成功した。
凍土の地・シベリアを糖度の地に変えんばかりの恋の旋風。
何故このような作戦になってしまったのか、“不安になるオーバースキル”“ピンクのカバが見え意味不明な行動を取るようになるオーバースキル”が同時に発動していたという噂がまことしやかに囁かれるほどである。
この事態の責任者に近いゲインはこう言った。
――――若いことはいいことだ。だからちょっと煽ってやっただけさ。これも1つのエクソダスって奴だな。
しかし味方側にもたらした被害も甚大であり、告白対象の3人は真っ赤になり返す言葉もなくなり、他にも行動不能に陥ったり、自殺を仄めかし周囲に止められるという事態が主に男性陣を中心に発生していた。
シベ鉄をはじめとする彼らと敵対する組織が襲撃をかけるとすればまさにこの時しかなかったのだが、この状況下で彼らの航行はこれまでにないほど順調に進んでいた。

そして、ここでも。

「た、助けてくれ、渓……」
体格に似合わずやけにやつれた凱がふらふらとゲッターの格納庫に崩れるように入ってきた。
「どうしたの、凱?」
「どうしたもこうしたも、そこでゲイナーとガロードとレントンが自分の好きな子がどれだけ可愛いか自慢しあっていたんだよ!」
「……あンだけやっといてまだ足りないワケ? あの子たち……」
「おまけに恋をするとどういう気持ちになるか語り合って……そんなもん、あいつらに聞かされるでもなくよーく知ってるよ!」
「あれ? 凱、好きな子いたンだ」
「あ、あのな、渓……」
凱は幼馴染である渓に恋心を抱いていた時期もある。
しかし渓が色恋沙汰に疎いせいか、戦いばかりだったせいか、渓がそれに気付くことはなかったのだ。
今ではすっぱり諦めているが、やはり肩を落とさずにはいられない。
「まあ、ちょーっとやる気なくしちゃうよね。ああいうの憧れるケド恥ずかしいしフツーはないわよ。號はどう思う?」
傍目には2人の会話を聞いていたのかいなかったのか、そもそも寝ているか起きているかもわからないような號だが、2人を見つめまばたきを1つ2つして答えた。
「ゲイナーたちの言葉のどこに問題があったんだ? あれで敵が弱体化した理由もこの艦の皆が疲れた顔をしている理由もさっぱりわからん」
「あーあー、そうだったわね。あんたはあっち側の奴だもんね」
「羨ましいけど何だかあっち側は行きたいとは思えないな」
呆れ顔で頷きあう2人に対して、號の表情は呆気に取られたものだった。
「?? 本当にわからん……」
「『俺はお前を守る』とか連呼しといてそれかっ!!」
思わず大声で返した後、慌てて顔を赤らめながら俯いてそっぽを向いた。
「あー、まあ、そういう訳だから。ちょっとは気遣えよな、渓のこと」
「わかった」
ようやく合点が行ったという顔でコクリ、と頷く。
「つまり、渓もサラたちのように叫ばれたかったんだな?」
「……はぁ?」
今度は渓と凱が呆気に取られる番だった。
「あのオーバースキルはもうないが、出来る限り大きく言えるよう努めよう。俺は……」
「わーわー!! この馬鹿! ゲッター馬鹿! そんな恥ずかしいこと艦内でやるなー!!」
深呼吸をして叫ぼうとした號の口を慌てて抑え、戦闘中でもないほど息を切らせる。
「渓、落ち着け」
「これが落ち着いていられるかっ!!」
「そうだそうだ!!」
「……艦内じゃなければいいのか?」
「それも違うっ!」
「わからん……だが、これはわかる。俺は、何があろうともお前を守」
「だから言うなー!!」

「……弁慶、泣いてやがんのか?」
「まぁな。あいつは一応、俺の娘だからな。しかし……若いな」
「そういうことを言ったら老けた証拠だ」
「ああ、実際俺たちは歳を取った。お前と違ってな」
「ケッ、こっちだって妙に悟っちまったよ。ま、それで取り落とした心が燃え上がる……そんな感じだ」
旧ゲッターチームは頷きあいながらこの世界の未来を見つめていた。

「何つーか、心の中にその子の存在が入ってきちゃうんだよな」
「そうそう。それで、その存在がどんどん大きくなっていって……」
「苦しくて、叫ばずにはいられなくなるっ!」
「そう、それだ! ティファのためなら俺は世界を変えてもみせる!」
「お、俺もエウレカのためなら……」

「はーい、現在進行形で被害拡大中ー。やっぱ新しいオーバースキルじゃない?」
「“惚気ずにはいられないオーバースキル”? ありえないと思うけどとりあえず整備班に厳重にキングゲイナーを調べるよう言っておくわ」

 

Z発売直前に書いた日記SSのリメイク。キンゲと言えばこの話。
Z以前にもACE3でやっていました。やはり同じ面子w
ただ私としては號にも叫んで欲しかった(というかACE3あんまり號渓的においしくなかった)ので、こういうSSが出来ました。
あの2人なら絶対こうなると思う。

 

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