◆遥かなる闘い、再宴(アンコール)

 

世界が変わる時、人もまた変わる。
今回の変化はこれまでにない規模だと乱闘者たちが感じた兆候の1つが彼女だ。
「正式登録前に奴を抹殺する」
サムスが殺気立っている。
賞金稼ぎという物騒な職を持つが、基本的にサムスは場の調和を保とうとする。
戦場を離れれば彼女は優しく母性のある人間なのだが、今は他でもないサムスが子供たちを怯えさせている。
「必要であれば協力しよう、サムス」
それを諌めてきたバートは丁寧語を使わず笑わない。
ファルコンハウスでの彼はいつもどおりだ。
亜空軍との戦いで救出したミサキ・ハルカが店番をしていて、何より隠し事をしなくて良くなった。
だが新たに大乱闘の戦士としての招待状が贈られたリドリーはサムスの宿敵であり、彼自身にとっても明確に敵だ。

「良くないね、これは。法で縛れない存在を乱闘のルールに縛る……民のためではあるけれど……」
マルスは考え込む。
首魁を失ったスペースパイレーツは大規模な活動が出来なくなり、何よりリドリーの参加が乱闘を愛する者に求められたのは、戦士たちが正しく戦い抜いた成果ではある。

大乱闘の戦士たちは『願い』で選ばれそれを力にしている。
己の願いを叶える。大衆にその戦いを望まれている。
その2つが力となり世界を動かすが、結果としてまた別の願いが生まれ新たな戦いを呼ぶのがこの世界だ。

「姐さんとファルコンが両方ああなのは初だからなぁ。ゼルダがガノンドロフを嫌いなのは国のためもあるけど、姐さんはリドリーに対して冷静になれる要素がない」
シークとしてのゼルダは飄々としており『ゼルダ』としての公式戦士は別のハイラルに生きるその名の姫となった。
リンク自身もトゥーリや荒野を生きる英傑と知り合い、騎士や勇者に縛られなくなって良くなり、ただ見定めようとする。

「狂った神竜より難しいな。人は団結すれば強いけれど、1人の行動が全てを変えてしまうんだ」
軍師であるルフレはそういった歴史をよく知っている――何よりも、1人の裏切りによりイーリスは絶望の未来へ進んだ。
そして彼の愛読書には、施政者を狙う暗殺者は村を焼く野盗によって生まれるとある。

「蘇り続ける悪夢の象徴であり相容れるはずのない味方か、やりづらいな。スペースパイレーツそのものはわかりやすいんだが」
煙草がわりの香草を口にスネークが毒を吐く。
魔法や異次元には慣れても、クッパがこの世界の悪の象徴であることだけは理解できない。
国を背負ってはいるが、クッパは私欲による侵略者だ。
クッパによりマリオ以外の住民が姿を消したという事例はキノコ王国に限らず銀河に及ぶ。
力を奪えば人々の生活は元に戻り、マリオにだけは手を出せないため野望は食い止められる。
ただその合間で後腐れなく乱闘を含むスポーツやパーティーに興じる本人たち、何よりもこの世界でクッパを殺し成り代わる者がいないという事実は彼の価値観ではひどく奇妙だ。
それに対して有象無象の多種族集団であるスペースパイレーツが乱闘以前から遺伝子情報や言動・行動原理を元に旗印であるリドリーを蘇らせ続けている、というのは理解が容易い。
世界やどちらにつくかの違いはあれど、傭兵――別の表現をすればバウンティ・ハンターはそれで生活をしている。
だが何よりもスネークが危機感を覚えるのはバートの言動だ。
演技が抜けているという問題ではなく、自身の宿敵であり私怨の相手を消滅させた彼は未練をなくしている。
「君もあの男は気に入らないと言っていた記憶があるが」
「嫌いじゃないわ、生理的に無理なの。それに無意味な反抗よ」
ダークサムスはフェイゾンがサムスの形を模して実体を持った存在だが、当人の行動はこの世界ではあまり問題にならない。
フェイゾンというエネルギーの性質は危険で、既に意志をなくした傀儡を含む狂信者の集団がダークサムスを信奉しているという事実はあるが、スペースパイレーツよりは制御しやすい。
興味深いことには積極的で、敵対していたバートが協力を求めたという事実はその存在の興味を引いた。
――――いや、その女だけは駄目だろう。ガノンドロフとは持つ意味が違うぞ。
その場で言うと拷問を受けそうな気がして後で告げたが、奔放な彼女はファルコンの頼みがなくなったことに意味を見出さなかった。

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リドリーが招かれるその日の朝になった。
出迎え役に任命されたルフレは同じ名の女性軍師に尋ねる。
「騒動が起きるのは確実だけど、何か策はあるかい?」
「いくつかありますが決定打がありませんね。クロムさんとルキナさんはこの状況では力を発揮出来ませんし」
この世界で出会ったもうひとりのクロムの半身は別の策を操り、彼より冷静だ。
彼自身も半身であるクロムとその娘であり愛する女性のルキナをさりげなく屋敷から隔離したが、それを言い放つ彼女は少し危険だと感じる。
「目の前の事態への対処が先決です。初動が肝心ですよ」
言われるまでもなく、と呟いて庭園に出て新たな挑戦者を待った。

「御丁寧なお出迎え、感謝するぜルフレ先輩」
「気は進まなかったけれど仕方ないね」
少なくとも今回はマスターハンドの采配は的確だと確信した。
長く硬い尾を持つ翼竜のような姿のリドリーは、スペースパイレーツとしてだけでなく亜空軍としての経歴を持つ。
ルフレにとっても皮肉な姿と何よりも言動が気に障るが、挑発は慣れている。
「ありがたいね、その活躍を間近で見られるなんて」
そして挑発も心得ている。
殺すことも殺されることも出来ない相手への的確な攻撃は言葉だ。
「ハッ、お前は無駄なようだな。だが知っているはずだ。善意の連中というもののタチの悪さを。その屋敷で俺を待ちわびている嬢ちゃんとかな」
「そうだな、待たせるわけにはいかない。早く逢いたいだろうから」
ルフレが任されたのはただの挨拶であり、時間稼ぎではない。

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――――殺す。協力者、武装、これまでの人生をかける。

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張り詰める空気の中で《未来視》が発動し、その内容にシュルクは迷わず宣言した。
「頼むよ、ガノンドロフ!」
「面白いな、やってやろう」
魔王はサムスとファルコンの前に立ちふさがる。
「何のつもりだ!」
「不毛だからやめておけと何度も言ったが聞かんからな。実力行使だ」
「今更何を!」
読むことの出来ない食えない男は魔王の肩書きと力を持つが、バートにとっては悪友だ。
「相手をするな、ファルコン!」
連携を乱されたサムスは苛立ちを抑えきれないが、敵は彼らではないことは理解している。

「お願いします、ルフレさん!」
次いでシュルクはルフレに《未来視》を伝える。
「的確な指示です。軍師の才もあるようですが、本当の策をお見せしましょう」
モナドの与える行動を起こさなければ確定する未来はその否定の必要性を教え、準備はしていなかったが取れる策はあった。
宝玉を輝かせる。強い輝きは新たな願いの力を喚んだ。
「行きましょう、カムイさん!」
6人の剣士が広間に現れた。
「……露骨な『大乱闘に参戦する』を避けたんだが……」
「運命は変えました。問題ありません」
同じ剣を持つ彼らのうち2人は状況を理解しているようだった。
「そんな書状を受けた記憶が朧げに……つまりこうでしょうか。私たちは皆『カムイ』だと」
「ああ、幼名がそうだったと母さんから聞いた。でも……」
少なくともマークスはその名で彼らを呼ばず、皆運命に操られながらそれぞれ決断を下した。
「そ、その……君たちは?」
「騒がしいな、乱闘者ってのは。戦っていない時もこうなのかよ」
扉はとうに開きルフレとリドリーが呆れかえっている。
「招待状は出していたようですが力を発揮しなかったので少しばかり強化しました。1ふぇーもしませんでしたね」
「なるほどその策が!」
「ルフレさん!?」
モナドは何も教えてくれず、シュルクも混乱しだす。

「サムス、少しばかり大人の対応をした方が良さそうだ」
ファルコンが呟く。
「コーヒーを淹れますので時間稼ぎをお願いしますね、ガノンドロフさん」
ヘルメットを外し久しぶりに彼らしい笑顔を見せた。
「いやー、あいつはああでないとな。やるぞスネーク」
「俺はファルコンを保ってくれた方がいいんだが……とりあえず落ち着け、サムス。知っているだろう。ここはこういうところだ」
「そういう所なのは知っているけど1ふぇーって何」
「そこなのか!?」

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伝書フクロウの提示する衣装はあまり彼の趣味に合わず、いつものエプロンを取り出した。
「大乱闘スマッシュブラザーズにようこそ、新たなファイターさん。私は……ふふっ、誰でしょうね」
初見で淹れたコーヒーは夢に溢れている。
カムイたちは安堵したがリドリーは反発した。
「おい何だお前!? このクソ甘いコーヒーは!?」
「いえ、スペースパイレーツの首魁の好みに合わせてやる必要は私には何ひとつありませんので。安心してください、これきりですから」
声を聞いてその正体を確信する。
「面白いな、大乱闘というのは。キャプテン・ファルコンの素顔が拝めるとは」
「久しぶりだな、リドリー。今の所奴は復活しないようだが貴様はなかなかしぶといな」
ゼロスーツの彼女が対立を遮る。
「得物を渡すつもりはないが、今やるべき戦いではないな。いこう、ステージへ」

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戦績には残らないエキシビジョンマッチ。
「行くよ、リザードン!」
彼女はハヅキ。どこにでもいるポケモントレーナーの少女だ。
「大乱闘の流儀を教わろうか、アイク」
「実践で学べ、ゼント」
『カムイ』の1人が問うが大斧を構えたアイクは一言で済ませた。
「待て、これも禁止なのか!?」
スネークの携行武器は増えたが乱闘では使えない。
秩序と混沌の手で運命が交差し、無限に広がる遙かな戦いが開幕する。
人々は歓声をあげ、新たな望みを創り出す。

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「あー、わかりやすいな。すっげー集中攻撃している」
「サムスもおっちゃんも大人気ないよなぁ」
ジャックとクランクが放送に呆れ、リュウは珍客に目を見開いている。
「ごめんなさい、マスターは留守なの。でも私のコーヒーもなかなかのものよ」
ハルカが笑顔を見せるこの少女は扉を開けずに入ってきた。
カラフルなインクが彼女の足跡を示しているので高機動小隊の管轄事件にはならないだろうが、なかなか忙しい。
――――キャプテン・ファルコンを引き受けなくて良かった。
変わり続ける世界で、変わらない日常が続いていく。

 

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すごく久しぶりのスマブラ小説です。このノリを取り戻すのに時間がかかりすぎました。
色々やりたいことはあったのですが「for新規多いけどマトモに書けないキャラの方が多い」などで遅くなりました。
ハルカが店員をしている、はforの情報が出るどころかXの時に考えていたのですがサイトでやると色々前提を積まないといけず。
一番の問題は「新規リドリーやった! いや、どうするんだ」です。とても嬉しいですが扱いにくいことこの上ないです。
口調や煽りキャラは漫画版準拠ですが(趣味)サムスとファルコンの反応どうする!?でかなり悩みました。ガノ様のおかげです
ちょい役のインクリング(ボーイもいます)とポケモンネタ積みまくったハヅキ(ポケトレ女)は今後色々。
斧アイクとかはエキシビジョンマッチ限定です(というよりそのために考えた設定だったり)
タイトル元ネタはスパロボの名曲「遥かなる戦い、開幕(オンステージ)」乱闘なので『闘い』です。

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