■世界で一番誰よりも

装備の手入れをしていると、ノックの音がした。
「ファルコ、あたしだよー」
「おう、プリンか。入れ」
答えるや否や勢いよく入ってきてファルコに引っ付こうとする。
「馬鹿、あんま引っ付くなって言ってんだろ。暴発したらどうすんだ」
「爆発なんてよくあることじゃない」
「とりあえずそれに触るな」
引き離すと、膨れ面になる。
――――ホント、“ふうせん”だよな。
プリンは大版の分厚い本を抱えていた。
アルバムだというのは彼にもわかった。
彼にとっては電子メモリーが常識であるし、あまり思い出をそういう形で残しておくタイプではないけれども。
ただ、プリンはアイドルを称するだけあって部屋にはその手の物が沢山ある。
「お前の活躍記録なら前にも見ただろ」
「違うもん。こっちに置いてるの、デビューしてからのでしょ? お姉様に言って小さい頃の借りてきたんだー」
「小さい頃って、今だって十分ガキだろ」
「子供扱いしないでよ!」
「そう言われて怒るのが子供だってんだ」
ますますむくれる。
喜怒哀楽がはっきりしているし、単純だからからかいがいがあって楽しい。
「そんな嫌なら進化ってのしちまいな。石1つで出来るんだろ」
「内側も大事だし、進化してもファルコが好きなボンキュッボンにはならないよ?」
「いつ! 誰が! そんなのを好きだって言ったぁっ!」
そして、逆襲を食らう。
彼女の場合は意図していないが。
――――まあそれも嫌いではないし、それに決してそっちの趣味でもないのだが。
「違うんだぁ。良かったぁ。男の人ってそういうの好きって言うし。それに、プクリンって毛皮が高級品だから怖い人が狙ってくるって話だよ」
「お前なら平気だろ」
乱闘で並いる強豪をはたき飛ばす戦闘能力は伊達ではない。
密猟者などものともしないはずだ。
そして、そう言われたプリンは満面の笑顔になる。
「そっかぁ! ファルコが守ってくれるもんね!」
「そういう意味じゃねぇ!」
無論全力を懸けて守ってやるつもりだが、あまりその必要性を感じない。

「で、その中身を見るんじゃないのか」
とりあえずの話題転換。
興味がある、というのも当然あるが。
頷くと、開いてみせた。
「ほらほら、あたしがププリンだった頃だよ」
「!! ……あー、可愛いんじゃねぇの?」
投げやりに言ったが、実際の所物凄く可愛い。
やはり天性のものがあるのかと思う。
ページをめくる度に昔の彼女とそれを取り巻く環境が見えてくる。

「しかしお前んちホントでかいな」
「この屋敷ほどじゃないよ?」
「ん、まあな」
「ファルコも一度遊びに来たらいいのに。お姉様も会ってみたいって言ってたよ」
「……気がすすまねぇしこういう所は合わねぇから」
――――だいたいそれって、実家にご挨拶って奴だろ。
こいつがお姉様とやらに何を吹き込んでいるかわかったものじゃないしな。
そりゃあ、いつかは覚悟を決めなきゃいけないだろうが。
「しかしポケモンが沢山いるな。俺には誰が誰だかわかりゃしねぇ。隣にいるこの子は誰だ」
「ピィちゃんだよ。今はピッピちゃんだけど。子役やってるし歌も歌うし、テレビとかいっぱい出てるんだー」
「ふーん、やっぱアイドルって奴なのか。可愛いもんだな」
何気なく呟く。
しかしプリンは少し俯いて、アルバムを閉じた。
「あ、あの、ファルコ……」
「ん? どうした?」
「その…………ううん、何でもない! ちょっとお花の様子見てくるね!」
ぱたぱたと駆けて部屋から出ていってしまった。

――――――ああ、そういうことか。

いつもファルコはプリンの行動力に振り回されている。
歌を聴かされては眠気に必死に耐える。
飛びつかれてはどこかに頭をぶつける。
魂が抜けると評判の彼女の料理を味見しては倒れる。
しかしその元々の原因といえば。
何となく彼が言った、“可愛い”という言葉。
無論、それだけではないけれども。

――――もしかして振り回してるの、俺の方だったりするのか?

とにかく、今やるべきことは1つ。
部屋を飛び出した。

プリンは彼女が言ったように、庭で花を見ていた。
「……あのな、プリン」
「どしたの? ファルコ」
振り向いた彼女は笑顔だったが、少し涙目になっていた。
「悪かったよ。けどお前、いつもは無駄に前向きなくせに何で時々そうなんだよ」
「…………だって、あたしってかわいさが全てじゃない? なのに殴り飛ばしたりヤキモチ妬いたり……かわいくないよね」
「俺にしてみればそんなことしない完璧な奴の方が可愛げがないぜ。それにお前は可愛いだけじゃなくて強いというか、強いから可愛いというか……その、何だ」

――――こういうことを言うのは、慣れていないけれども。

「全部ひっくるめて、お前は可愛いだろ! 少なくとも俺にとって一番可愛いのはお前だよ! それにこのスマブラ以上のステージがあるのか!?」
「…………うん、やっぱファルコはかっこいいね」
にぱっと笑う。
「外見も、中身も、強さも。すっごくかっこいいよ……あたしも、自信もって、いいのかな?」
「いいに決まってんだろ。だいたいお前がそういう風だと凄く調子狂う」
「わかった! じゃあ、おわびにお菓子作る!」
「げ!? だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫大丈夫。いっぱい練習したから!」
彼女の場合、料理に関してだけは、大丈夫だったことがないのだが。
しかし無碍にするわけにもいかない。
「じゃあ味見だな……ところで」
「何?」
「……コンテストって色々部門あるんだろ? お前が優勝したって時の“かっこよさ”担当って……」
「…………ふふ、凄くかっこいいよ! ひたむきで! 憧れるな、ザングースちゃん!」
「そ、そうかよ……って、ちゃん?」
「女の子だよ。もちろん男の子の“かっこよさ”担当もいるけどね。でも!」
スキップをしながら本館に向かっていく。
「あたしが一番好きなのは、ファルコだから! たとえザングースちゃんが男の子でも、他の子たちがいても、ファルコはかっこいいよ!」
「……そっか」
微笑して、彼女の後をゆっくり追いかける。

そしてしばらくして、医務室送りになったファルコの姿があったのだった。

 

ファルプリ。何だこのバカップル。いや、客観的に見ると糖度低い気がしますが私が書いた物にしては凄く甘い。ネタの一部を焔が考えたからかな?
無邪気だけどプライドもあるプリン。ツンデレというかむしろただツッコミ気質なだけのデレデレファルコ。書いてて楽しいです。
“かっこよさ”で真っ先に思いついたのはジュプトルだったのですが、御三家はちょっと反則かな、と。明らかにポケダンの影響だし。

 

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