■夏が始まる

青い空、白い雲、広がる水平線、強い日差し。
「そして! ビーチフラッグでエフラムに勝った私!」
「お兄様、エフラムは水着を用意していなかったのよ」
ルネスの兄妹に渡す果物を選びながらターナが呆れる。
「甘い! この闘技に参加するからには水着の準備と水着になっても恥ずかしくない身体作りをするのが高貴なる者の務めというものだ!」
「どおりで最近『見せるため』の訓練をしていると思ったら……でも残念ね。私もエイリークと泳ぎたかったわ」
「む……」
「あ、お兄様! ちょっと水着姿のエイリークを想像したでしょ! いやらしいんだから!」
「だ、断じてそういうことはないぞ!」
フレリア王家の2人を遠目にノワールはパラソルの陰でジュースを口にする。
――友達のお母さんと一緒に海とか少し緊張するなぁ。皆も来てくれればもっと海を楽しめたのに――
その時、異界の英雄が『門』から現れた。
「!! ウード、アズール、セレナ!」
「えええええ!? じゃなかった、ひ、人違いじゃないかな!?」
駆け寄られたラズワルドは慌てて2人に助けを求める。
とはいえ2人も慌てているのは同様である。
「そ、そうよ! アズールはほら、あっち!」
「やあノワール! いい夏だね! 君の水着を見られて嬉しいよ!」
「え、人違い……!? そ、そうよね……確かにあっちの方が私の知っているアズールな気がする……ダンサーみたいだけど……」
見比べる。他人の空似というものだろうか。
「そ、そう! 俺たちは異なる次元の境界を切り裂き顕現した暗夜王国の英雄で、俺は漆黒の呪術師オーディンであり断じてウードでは……」
「貴様ぁ!」
ノワールが鬼面の相に変わり弓を引き絞る。
「げげっ!?」
「何が人違いか! 貴様のその心地良い詩吟、呪術師にあるまじき歪みのなさ! 母より受け継いだ力が貴様がウードだと告げている! やましいことがあるならとっとと白状するがいい!」
「やめろノワール。そいつは本当に人違いだ」
ジェロームが割って入る。
「黙れ不審者! 一足先に合流しおって!」
「今は特に不審者ではないだろう!」
「あ、あの、ノワール……本当に人違いらしいですよ」
ルキナに言われると流石にノワールも素に戻る。
「え……? だ、だってそっくりだし言動もそのままだし何か感じるものがあるし……」
「私もアズールもジェロームもそう思いました。でも彼らは暗夜王国の英雄。白夜と暗夜といえば英雄王の時代よりも古い神話の世界。きっと生まれ変わりか何かです」
「そ、そうだ! 輪廻を越えた我らが貴様の友として生まれるのだ! 何と運命的な出会いか! だ、だから弓を下ろしてくれないかな……?」
震える手で構えた手を下ろす。
否、震えているのは手だけではない。目を潤ませてすすり泣きをしていた。
「ご、ごめんなさい、異界の英雄さん……憧れの綺麗な海に来られたのに友達がいなくて、ちょっと緊張していて、私……」
「泣かないで、ノワール。僕たちが一緒に遊ぶよ! 君の笑顔が見たいな!」
「そうだ。我らは魂で繋がれた仲。共に夏の思い出を作ろうではないか!」
「ふふっ、アズールはいつもそうね……そしてオーディンさんも本当にウードそっくり……」
オーディンが密かに冷や汗をかく。これで4人目だが未だに慣れない。
「し、仕方ないわね。わ、私もセレナって子の代わりに遊んであげるわよ。し、仕方なくなんだからね!」
――ルーナがまた墓穴を掘ってるなあ。
ラズワルドが溜息をつく。言いたいことは色々とあるが口に出せば彼も墓穴を掘ることになる。
「良かったわね、ノワール。異界の英雄と仲良くなれて。はぁ……どこかの異界には私とクロム様が結ばれるような……って異界の私じゃダメなのよ!」
「うわぁ……」
「ってちょっとそこの傭兵さん!? うわぁって何よ!」
ルーナが思わず漏らした嘆息にティアモが槍を構える。
――――言える訳がない。どこの異界でも母さんはこうだし水着でノワールと並ぶと逆に胸が目立つなどと。
「イーリスと異界の諸君、今は闘技の時間ではない。武器は収めるべきだ」
「そうよ! 折角の海なんだし楽しく過ごしましょ!」
ヒーニアスとターナの介入により一触即発の事態は避けられる。
「えー、水着を持ってきていない英雄の皆様ー! 今ならアンナ商会がおトクなお値段で水着をレンタルしちゃうわよー!」
「アンナさんだわ! エイリークを連れて来て水着を選ばなきゃ!」
「あの男も呼んでこい。泳ぎでも私が上だと証明してやる!」
「ほ、ほら、異界の英雄の皆さんも水着になって! 遊びましょ!」

夏が、始まる。

 

FEHにノワールきたあああああああああ!! という訳で書けば出る教です!
フレリア兄妹の水着も来てしまった。「実は泳げる」はヒドいw
ウドノワ固定バグなのでオディノワな内容にしようと書き始めましたが何だかそうならなかった。

 

テキストのコピーはできません。