■まだ答えは見えない

150年なんて無茶苦茶すぎる。
自分は適応力のある方だと思っていたが、これは流石に無理だ。
戦うことを決め、昨日住む所も貰ったが――――えらく早く目が覚めてしまった。
まだ出勤時間じゃない。
だがここにいても仕方ない。
少し街をぶらつくことにした。
下町はかつての面影を残していた。
だから少し落ち着く。
まあ雰囲気だけで街並みそのものは別物だし、元々あまり出歩かない方ではあるのだが、気分転換にはなる。
このあたりは住宅地のようだが、その中に隠れるようにその喫茶店はあった。
「……ファルコンハウス?」

店の扉をくぐるとマスターらしい男性がカップを磨いていた。
「いらっしゃいませ……おや、初めての方ですね」
「ああ。何かオススメある?」
「この時間ならモーニングセットがお得ですよ」
「じゃあそれで」
愛想がよく穏やかな印象をうけた。
少し、昔の父親に似ている気がした。

しばらくすると注文した品が出てきた。
コーヒーに口をつけた――自分の好みを知り尽しているんじゃないかってくらいうまかった。
「スゴいな……こんなうまいコーヒー飲んだことないや。この店は1人で?」
「見ての通り小さい店なもので」
「こんなうまいのに勿体ないな……けど1人客が増えたな。俺、最近この街にやって来たんだ。多分また来るよ」
「ええ、是非またいらして下さい。あと、お名前教えて下さいますか? 覚えておきますから……ああ、私はバート。バート・レミングです」
「バート、か。俺は………………」

 

――――少しだけ、この世界が好きになれた気がした。

 

「リュウ・スザク……?」
今日のレースにエントリーする者の中に、その名を見つけた。
F-ZEROパイロットとしてミュートシティにやって来る者など珍しくない。
だが、彼のドラゴンバードは特別なマシンだ。
つまり、彼もまた。
「…………運命、か……」
その意味を、彼は知らない。
そしてある程度の運命があっても、その中でどう生きるかなんて、誰にもわかるはずもない。
それでも、彼でよかった。
嬉しい出会い方をしたものだと思う。
そしてとてもいい印象を受けたから。
きっと、彼なら。
ただ、少し彼であってほしくないとも思った。
運命というのは、残酷なものでもあるから。

 

「この街には慣れましたか?」
「この店の味にはね」
「……以前はどこにいらしたんですか?」
「…………150年前のこの街さ」

 

アニメ版「F-ZEROファルコン伝説」からリュウ&バート初対面。伝説・スタート!!な感じで。
2話のバートさん初登場時で既に常連さんになっているリュウさん。
なら初めてお店に来た時は、などなどSSラストに引用した会話を深読みして妄想しまくった結果こうなりました。
彼も最初からわかっていた訳じゃないんじゃないかなーとか。

 

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